当院で特徴的な治療法

腎細胞癌に対する分子標的治療

分子標的治療

近年、画像診断の進歩と予防医学の普及により早期に発見される腎細胞癌(以下腎癌)は増加し、腎癌全体の治療成績は改善しています。しかし、腎癌は抗癌剤・放射線が効きにくく、転移を伴うような進行性の腎癌の治療成績を改善することが課題とされてきました。現在までに用いられてきたサイトカイン療法(インターフェロン・インターロイキン2)は、15〜20%程度の症例に有効といわれています。現在、新しい治療として注目を浴びているのが、分子標的治療です。

分子標的治療薬とは

分子標的治療薬は、腫瘍細胞の増殖や血管内皮細胞の増殖にかかわる細胞内シグナル伝達を阻害することによって腫瘍の増殖を抑える薬です。マルチキナーゼ阻害剤であるスニチニブ (スーテント®), ソラフェニブ (ネクサバール®)が2008年にわが国において腎癌治療薬として承認され、当院での腎癌の患者さんに治療薬として使用されています。また、mTOR阻害剤であるテムシロリムスとエベロリムスは日本での臨床試験が終了し、承認を申請中です。第2世代の血管新生阻害薬として、アキシチニブとパゾパニブの臨床試験が現在行われています。

分子標的治療の作用機序

腎癌はさらに細分化すると、淡明型腎癌・乳頭型腎癌・嫌色素細胞型腎癌・その他(ベリニ管癌等)に分けられます。大半を占めるのが淡明型腎癌で、この淡明型腎癌では約60%でvon Hippel Lindau(VHL)遺伝子の不活化が認められています。VHL遺伝子不活化により転写因子であるhypoxia-inducible factor (HIF)の恒常的活性化が生じ、結果、血管新生因子:VEGF、血小板由来増殖因子:PDGF、トランスフォーミング増殖因子:TGFαの合成を促進させます。VEGF、PDGFは血管新生をひき起こし、TGFαは腫瘍の増殖を促進します。分子標的治療薬は、このHIFの蓄積とそれに基づくVEGF、PDGF、TGFαの発現と機能亢進をその受容体側で遮断することで抗癌作用を示します。(当教室では腎癌に対する分子標的治療薬の作用機序や、分子標的の対象となる分子の研究を積極的に行っています。)

分子標的治療薬の投与成績

ソラフェニブ:前治療に抵抗性の転移性淡明型腎癌903例を無作為に2群にわけ、ソラフェニブ(800mg/day)と偽薬〈効果のない薬〉を投与したところ、無増悪生存期間は5.5ヶ月と2.8ヶ月であり、ソラフェニブを投与した群で延長を認めました(Escudier B et al, N Engl J Med, 356, 2007)。

スニチニブ:無治療の転移性腎癌(淡明型細胞癌)750例を対象に無作為比較対照試験として、スニチニブ (50mg/day;4週投与、2週休薬)あるいはIFN-α(900万単位;週3回)の投与を行ったところ、無増悪生存期間は11ヶ月と5ヶ月であり、有意にスニチニブで延長を認めました (Motzer RJ et al, N Engl J Med, 356, 2007)。

副作用

分子標的治療薬の特徴として、高血圧・疲労・下痢・皮膚炎が副作用として生じる可能性があります。高血圧は血管新生阻害効果のあるすべての分子標的治療薬において比較的高頻度で出現すると言われています。また甲状腺機能低下症が認められる場合もあります。当科では病棟と外来が連携して、手足の皮膚症状のコントロールに積極的に取り組んでいます。

注意点

分子標的治療がより高い腫瘍増殖抑制力をもっているという報告がされ、また、実際にいくつかの分子標的薬が承認されたことから、現在では日本においても、分子標的薬が転移を伴う腎細胞癌の治療の大きなウエイトを占めるようになってきました。今後もこの分野の発展が期待され、治療成績が改善していくことが予想されます。ただし、以下の注意点があります。

  • 腫瘍の増殖因子を阻害する作用のある薬です。癌細胞を殺す作用は強くはないので、有効率は低いものの、腫瘍の進展を食い止め、無増悪生存期間を延長させることが最大の特徴です。薬が効いていても、腫瘍径に変化が見られないことがあります。
  • 「抗癌剤ではないので副作用が少ない薬」というのは間違った認識です。副作用として手足の皮膚反応があり、痛みを伴い場合によっては歩行困難を来たす場合もあります。また、海外のデータは豊富ですが、日本人の副作用のデータはまだ蓄積中の状態です。国内での使用経験から、副作用を少なくする投与法なども検討され始めていますが、現時点ではなお投薬に際し注意深く使用する必要があります。

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