研究テーマ

前立腺癌研究

前立腺癌は泌尿器系癌の中で最も罹患率が高く、ホルモン療法に感受性を失うとそのコントロールは困難であり、確立した治療法はありません。当科では前立腺癌の制圧を目標として、早期診断、浸潤・転移機構の解明、新規治療戦略の開発などによる治療成績の向上を目指してきました。当院では臨床データを統計学的に解析することにより、早期癌における病理学的病期ならびに再発予測のノモグラムの作成や進行癌の予後の層別化を可能にしました。基礎的研究においては血管新生や転移浸潤関連物質、各種サイトカイン、NFκBなどを標的とした新規分子標的治療の開発などを目指しています。

今までの研究成果

基礎研究

前立腺癌とサイトカインとの関連を中心に検討してきました。前立腺癌における凝固異常とTNFの関連性を見出し(Nakasima et al. Cancer Res. 55, 1995)、次いで悪液質の病態生理においてTNFが重要な役割を果たしていることを示唆しました(Nakasima et al. Clin Cancer Res. 4, 1998)。また、進行性前立腺癌患者において、IL-6が上昇している症例では有意に予後が不良であることを報告し(Nakasima et al. Clin Cancer Res. 6, 2000)、さらにはIL-6により制御されている血清CRPが予後因子であることを見いだしております(Nakasima et al. Urol Int. 2007, in press)。IL-6などの産生に関与するとされる転写因子の一つであるNFκBがホルモン抵抗性前立腺癌において恒常的に発現しており、NFκBがTNFにより誘導される細胞障害にも関与していることを見出し、NFκB阻害剤がTNFにより誘導される細胞障害を増強させることを報告しました(Sumitomo et al. J Urol. 161, 1999)。また、ホルモン抵抗性前立腺癌に対して新規に開発されたNFκB阻害剤が抗腫瘍効果を示すことを見出し(Kikuchi et al. Cancer Res. 63, 2003)、悪液質の病態生理にIL-6が関与していることを示唆し、新規NFκB阻害剤がIL-6の産生を抑制するとともに、前立腺癌による悪液質の治療剤として有用であることを示しました(Kuroda et al. Clin Cancer Res. 11, 2005)。さらに悪液質をきたした前立腺癌患者においてIL-6が上昇していることを確認しました(Kuroda et al. Urology 69, 2007)。一方、制限複製型変異ヘルペスウィルスであるG207が基礎実験を通じて、前立腺癌に対する新たな治療戦略となりうることを報告するとともに(Oyama et al. Jpn J Cancer Res. 91, 2000)、前立腺癌に対してdiethylstilbestrolやbcl-2 antisense oligodeoxynucleotidesが抗腫瘍効果を示し、それらの併用による治療戦略の可能性を示しました(Kikuchi et al. J Urol. 169, 2003)。ホルモン抵抗性前立腺癌においてAktの活性化にWntが重要な役割を果たしており、Wnt signalを抑制することにより、Aktの活性化が抑えられ、新たな治療戦略と成りうる可能性も示しました(Ohigashi et al. Prostate. 62, 2005)。ホルモン抵抗性前立腺癌に対する新しい治療法の開発を目指し、prostate-specific membrane antigen(PSMA)を標的として樹状細胞を用いた細胞免疫治療の基礎を確立しました(Horiguchi Y. et al. Clin Cancer Res, 8, 2002)。またホルモン抵抗性前立腺癌において1型アンギオテンシン受容体が多く存在し、血管新生が盛んであることを明らかとし、アンギオテンシン受容体ブロッカーの投与は血管新生抑制作用により抗腫瘍効果を示すことを確認しております(Kosaka et al. Prostate 67, 2007)。さらに、ホルモン抵抗性前立腺癌おいてEts-1およびHIF-1を介して血管新生促進因子であるVEGFを誘導していることを確認し、アンギオテンシン受容体ブロッカーはこれらを抑えることで血管新生を抑制することを明らかにしました(Kosaka et al. Prostate, 2009)。

臨床研究

前立腺癌診断においてPSAとγ-Sm比が有用であることを報告しました(Nakashima et al. Int J Urol. 6, 1999)。その後PSAがgray zoneを示す症例の前立腺癌診断において、PSA関連マーカーのなかでPSA adjusted for transition zone volume (PSATZD)が特に有用であることを示し(Kikuchi et al. Cancer 89, 2000)、再生検における癌の検出においてもcomplexed PSA adjusted for transition zone volumeやPSATZDなどのvolume adjusted PSAの有用性を報告しました(Horinaga et al. J Urol. 168, 2002)。また、transition zoneのepithelial volumeを加味したPSA adjusted for transition zone epithelial volume(PSATZepiD)が再生検での癌の診断に有用であることを報告しております(Ohigashi et al. J Urol. 173, 2005)。骨転移診断における血清マーカーの研究において、骨転移診断においてalkaline phosphatase(ALP)とともにcarboxyterminal propeptide of type 1 procollagen(P1CP)が有用であることを示し(Nakashima et al. J Urol. 157, 1997)、alpha1-antichymotrypsin-PSAが有用であることを示しております(Kikuchi et al. Urology 68, 2006)。骨転移症例において内分泌療法が奏功する場合に、内分泌治療開始後早期にALPやP1CPが一時的に上昇する(healing flare)場合があることを報告し(Nakashima et al. Urol Int. 58, 1997)、内分泌療法が施行された転移を有する症例において、ALP flareを示す症例は長期的には予後不良である事を報告し(Nakashima et al. Urology 56, 2000)、血中C反応性タンパクと骨への広がりが疾患特異的生存に寄与することを見出しました(Nakashima, et al. Urol Int 80, 2008)。

進行性前立腺癌に対する内分泌療法の多施設共同研究においてLHRHアゴニストやリン酸エストラムスチンとそれらの併用療法との比較検討を行い、初期治療について検討しました(斉藤 他、日泌尿会誌 92, 2001)。内分泌療法が施行された前立腺癌において骨密度や血清T型コラーゲンN架橋テロペプチド(NTX)を測定し、内分泌療法の骨に対する影響を報告しました(丸茂 他、泌尿器外科 17, 2004)。前立腺癌の画像診断においては、経直腸コイルMRIをいち早く臨床に組み込み、その有用性を検討しております。経直腸コイルMRIを用いることにより内分泌療法後には前立腺癌の原発巣がdownsizingするとともにdownstagingされる可能性を示しました(Nakashima et al. Cancer 80, 1997)。手術が施行された限局性前立腺癌において、経直腸コイルMRIは腫瘍の局在や大きさ、局所浸潤の評価において有用であることを報告しました(Nakashima et al. Urology 64, 2004)。しかしながら、進行性前立腺癌患者においては経直腸コイルMRIによる局所の評価は予後と関連しないことが示唆され (Nakashima et al. Urology 70, 2007)ました。また、前立腺癌に対して根治的前立腺摘除術を施行した症例を検討し、被膜外浸潤の予測に腫瘍最大径が有用である可能性を示してきました(Mizuno et al. Int J Urol. 13, 2006)。さらに、PSA関連マーカーやGleason scoreに経直腸コイルMRI所見を加味することにより病理学的病期の予測ノモグラムの作成が可能であることを示しました(Horiguchi A, et al. Prostate 56, 2003)。

根治術後の再発に関する検討で、摘除標本のGleason scoreや被膜外浸潤の有無とともにmicrovascular invasionの有無が予後因子であり、(Ito et al. Urol Int. 70, 2003)、前立腺腫瘍体積の最大径が前立腺全摘後のPSA再発を予測するのに有用であることを見出しました(Mizuno, et al. BJU int 104, 2009)。また、PSA velocityとMRI所見、Gleason’s scoreが前立腺全摘の際の被膜外進展の予測因子となること(Nishimoto, et al. Int J Urol 15, 2008)が示唆されました。

臨床病期Cの前立腺癌の予後を検討し、放射線治療と内分泌治療の成績を比較し(小山 他、泌尿器外科 12 1999)、臨床病期Cの前立腺癌に対する放射線治療の成績を検討し、外照射療法と小線源療法の位置づけを考察しました(斉藤 他、泌尿器外科 15, 2002)。現在、早期前立腺癌に対して永久挿入密封小線源治療の頻度が増加しております。また、摘出検体を利用してSTAT3の活性化を検索し、STAT3の活性化が限局性前立腺癌の浸潤性や再発に関与していることを報告しました(Horinaga et al. Urology 66, 2005)。

前立腺癌に関する現在進行中のテーマは下記の通りです。

  1. ホルモン抵抗性前立腺癌の発症機序解明
  2. 放射線感受性増強の試み(NFκBとの関連を中心に)
  3. ケモカインをターゲットとしたホルモン抵抗性前立腺癌の治療戦略
  4. 多剤併用新規抗癌剤を用いた前立腺癌の新規治療戦略
  5. 前立腺癌の新規マーカーの検証とその臨床応用
  6. 新規アンギオテンシン受容体ブロッカーを用いた前立腺癌の治療とその作用機序解明

現在進行している倫理委員会承認の基礎臨床研究

前立腺癌MRI診断における拡散強調像の有用性の検討

磁場を利用して体の断面を画像化する磁気共鳴画像検査(MR検査)の撮影法の1つに、拡散強調像という方法があります。拡散強調像は、いままで種々の癌の検出に有用と報告されています。当院では、前立腺癌の検出に有用かどうか、前立腺全摘標本とMRI拡散強調像を対比して検討しています。研究のために、当院で前立腺のMR検査と手術を受けられた患者様の診療記録、MR画像、前立腺病理標本のデータを用いることがありますが、データは匿名化され厳重に管理されており、患者様の個人情報は一切公表されません。この研究につきまして、患者様から診療記録やMR画像を用いてほしくないと申し出ていただいた場合には、データを使用いたしませんのでお申し出ください。

連絡先:慶應義塾大学医学部 泌尿器科学教室 篠田和伸
  電話03-3353-1211(代表)、内線62423]

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