業績紹介

学会賞受賞の紹介

「第618回東京地方会 ベストプレゼンテーション賞受賞」

受賞者  久冨木原 良平

このたび、『両側精巣退縮症候群と診断した1例』について発表をし、第618回東京地方会でベストプレゼンテーション賞を受賞することができました。
 精巣退縮症候群とは精巣が下降した後、出生前に精巣捻転などによる血流障害によって精巣組織が高度に萎縮した状態とされており、両側に生じることは非常に稀です。本症例は1歳2ヵ月の男児、1ヵ月健診で両側精巣非触知を指摘され当院紹介受診されました。LH、FSH高値、AMHは測定感度以下であり、hCG負荷試験でもテストステロンは反応を示さないことから、両側精巣退縮症候群が疑われました。腹腔鏡にて両側精巣は腹腔内に認められず、退縮した精巣動静脈と精管が閉鎖した内鼠径輪に流入しているのが確認できました。鼡径部切開を加えたところ精巣遺残組織(nubbin)を陰嚢上部に認め、これを摘除しました。Nubbinには性腺組織の名残と思われる間質の硝子化とヘモジデリン沈着を認め、両側精巣退縮症候群と診断することが出来ました。Nubbinへの対応は議論が分かれるところでありますが、約10%にviable germ cellが存在しており、将来の悪性化が懸念されることから摘除することが一般的とされています。今後は精巣捻転に関わる遺伝子の解明など、さらなる原因の究明が求められています。

指導医のコメント(浅沼宏)

本症例は、日頃よりの小児科・泌尿器科の密な連携が功を奏し、はじめ手術には少し抵抗感をお持ちだったご両親でしたが、スムースに治療を進めることができました。また、的確な診断と治療のみならず、外性器の形成や発達から予想される精巣退縮の時期についても考察したことが高い評価をいただいた要因と考えています。

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2015 American Urological Association (AUA) Annual Meeting "Best of Posters" Award 受賞

受賞演題 
Relationship between increased expression of Axl-Gas6 signal cascade and prognosis in upper urinary tract urothelialcarcinoma

受賞者  服部 盛也

このたび、Axl-Gas6カスケード亢進と上部尿路上皮癌術後の予後との関連について検討した研究課題が平成27年5月に米国のNew Orleansで開催されました2015 American Urological Association (AUA) Annual Meetingに於いて、"Best of Posters" Awardを受賞しましたので報告いたします。

Axl-Gas6カスケードの亢進と腫瘍転移・浸潤の関連が各種癌種で報告されておりますが、上部尿路上皮癌(upper tract urothelial carcinomas :UTUC)におけるこれらの蛋白発現の意義は未だに明らかにされておりませんでした。本検討ではUTUCにおけるAxl、そしてGas6蛋白の発現と予後との関連について明らかにすることを目的といたしました。本研究では、腎尿管全摘除術・膀胱部分切除術が施行された多数例のUTUC症例の摘出検体を用いて免疫組織学的染色を行い、Axl及びGas6の蛋白発現を評価致しました。その結果、Axl及びGas6の蛋白発現は互いに関連を持ち、尚且つUTUCの癌特異的生存を予測する独立した因子である事が確認されました。特にT2 stage以上のUTUCにおいて、これら蛋白発現の強弱が癌特異的生存と強く関連する事が示唆され、最終的に独自のリスク分類を作成し報告致しました。

今回の受賞に際し、多くの先生方に示唆に富む助言を頂きました。伝統ある学会でこの様な栄誉をいただきましたことに対し、直接の御指導をいただきました菊地栄次先生はじめ,小坂威雄先生、大家基嗣教授、そして慶應大学泌尿器科学教室の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。


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平成26年度(第4回) 性の健康医学財団賞受賞
受賞論文「A Prospective Longitudinal Survey of Erectile Dysfunction in Patients with Localized Prostate Cancer Treated with Permanent Prostate Brachytherapy」 J Urol. 2013 Mar;189(3):1014-8. doi: 10.1016/j.juro.2012.09.086. Epub 2012 Sep 24.

受賞者 松島 将史

性の健康医学財団は大正10年10月に財団法人日本性病予防協会として設立以来、性感染症をはじめ性の健康を損なう諸要因を究明し性に関する医学の発展を図り、また性の健康に関する知識の普及・啓発を推進し、我が国の子孫の健全な繁栄及び国民の健康にして文化的な生活の向上に資することを目的として活動されております。平成23年10月に財団設立90周年事業の一環として、性感染症及び性の健康に関して、その成因、病態、診断、治療、予防・啓発等の科学的研究の発展を図るために「性の健康医学財団賞」が設けられ、本年度が4回目となります。このたび、Journal of Urology掲載論文である『A Prospective Longitudinal Survey of Erectile Dysfunction in Patients with Localized Prostate Cancer Treated with Permanent Prostate Brachytherapy』につき、第4回 性の健康医学財団賞受賞を受賞いたしましたので報告させていただきます。

限局性前立腺癌に対しては、どの治療法を選択してもある程度の治療成績が期待できる今日、患者の年齢やQOLを十分に考慮したうえで治療の選択がなされますが、治療後の合併症の情報は治療前より充分にinformされ、理解される必要があります。本論文では永久挿入密封小線源治療に関して、患者のQOLを低下させる要因のひとつである勃起不全に注目し、検討しました。
2004年から2010年までに当院で限局性前立腺癌に対して永久挿入密封小線源治療を施行した261例のうちホルモン治療施行症例、PDE-5阻害薬内服症例、IIEF未回答症例を除く119例を本検討の対象としました。治療前、治療後3、6、12、18、24、36カ月後にIIEFアンケート調査を行い、性機能を評価しました。勃起不全の重症度は、勃起機能(EF)スコアを用いて5段階に分類しました。また勃起能は、EFスコアにおいて11点以上を勃起能ありと判定しました。結果は、治療前に119例中48例(41.3%)に勃起能を認めました。全119症例を対象とした場合、総IIEF、各ドメインスコアは治療12ケ月後において治療前と比べて有意に低下しました。勃起不全の重症度は治療前で正常勃起機能群(12.6%, N=15)、軽症群(11.8%, N=14)、軽症〜中等症群(6.7%, N=8)、中等症群(9.2%, N=11)、重症群(59.7%, N=71)の割合でありましたが、治療12ケ月後にはそれぞれ、5.9% (N=7)、7.6% (N=9)、4.2% (N=5)、8.4% (N=10)、73.9% (N=88)でありました。治療前勃起能を有していた48症例を対象とした場合、治療12ケ月後勃起不全の重症度分類が変化しなかった症例は16例で、勃起不全の重症度が増悪した症例に比べて治療前のPSA値、臨床病期、Gleason score、現病歴、治療前IIEFの各ドメインスコア、治療前総IIEFに有意差を認めませんでした。一方、年齢が70歳以上では治療12ケ月後勃起不全の重症度が増悪した症例が有意に多い(p=0.03)傾向が認められました。以上より、永久挿入密封小線源治療により性機能の低下、勃起能の重症度の悪化が認められました。患者年齢は永久挿入密封小線源治療後の勃起不全の発症に関連していると考えられました。

この度、この様な栄誉をいただきましたことに対し、性の健康医学財団の皆様をはじめ、直接の指導をいただきました菊地栄次先生と大家教授、そして慶應大学泌尿器科学教室の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

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第25回日本性機能学会学術総会 ヤングサイエンティストアワード受賞
受賞演題「永久挿入密封小線源治療後のPSA bounceとIIEF-15の関連についての検討」

受賞者 松島 将史

このたび、『永久挿入密封小線源治療後のPSA bounceとIIEF-15の関連についての検討』につき第25回日本性機能学会学術総会に於いて演題発表を行い、ヤングサイエンティストアワードを受賞いたしましたので報告させていただきます。

限局性前立腺癌への放射線療法後の経過観察中にPSA値が一過性に上昇するPSA bounceは臨床的再発を想起させ、医療者側だけでなく、患者さんをも悩ませる現象であります。PSA bounceの詳細なメカニズムは未だ明らかになっておりませんが、若年齢がリスク因子として最も多くの報告がなされています。若年齢においてPSA bounceを生じる機序として性機能との関連が指摘されておりますが、PSA bounce時の性機能を詳細に検討した報告はありません。そこで今回我々は、永久挿入密封小線源治療後のPSA bounceと性機能の指標の一つであるIIEF-15の関連について検討を行いました。
当院で永久挿入密封小線源治療を施行された157例を本研究の対象としました。治療前、治療後3、6、12、18、24、36カ月後にIIEFアンケート調査を行い、性機能を評価しました。PSA bounceは、PSA値が小線源治療後連続的に下降した後、上昇前値から0.4ng/mL以上の一過性の上昇を認め、その後、上昇前値またはそれ以下に下降した場合と定義しました。結果は、157例中39例(24.8%)にPSA bounceを認めました。単変量解析ではPSA bounceを認めた群は認めなかった群と比較して、小線源治療3、6、12、24、36ヶ月後全てのEFドメインスコア、SDドメインスコア、総IIEFスコアが有意に高く、年齢70歳未満が多い傾向を認めました。多変量解析では小線源治療12ヶ月後の総IIEFスコア、年齢70歳未満がPSA bounce出現の独立した因子でありました。以上より、永久挿入密封小線源治療後において、総IIEFスコアはPSA bounceに関連していると考えられました。

この度、伝統ある学会でこの様な栄誉をいただきましたことに対し、日本性機能学会の皆様をはじめ、直接の指導をいただきました菊地栄次先生と大家教授、そして慶應大学泌尿器科学教室の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

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第27回日本泌尿器内視鏡学会 未来の匠賞
受賞演題「単孔式腹腔鏡下手術におけるcross-over techniqueの有用性」

受賞者 宮嶋 哲

このたび、「単孔式腹腔鏡下手術におけるcross-over techniqueの有用性」について発表を行い、第27回日本泌尿器内視鏡学会で未来の匠賞を受賞させて頂きました。

単孔式腹腔鏡手術(Laparoendoscopic single-site surgery: LESS)は腹腔鏡手術のさらなる低侵襲性と整容性の獲得を目指して登場しました。臍は胎生期に生じた臍帯の体側に残存した部分の瘢痕であり、その瘢痕である臍をアクセスとして使用することで、切開創を最大限隠しうることが可能になります。つまり臍を介してLESSを行うことで「傷のない手術」という外科手術の究極の理想を実現します。しかし、臍からのアプローチは通常の腹腔鏡手術と異なり、標的臓器への角度が少なく距離も長くなるため、鉗子の組織把持力が問題となります。さらに単独の操作ポートから2本の鉗子と内視鏡が操作されるため、鉗子ならびに内視鏡が干渉しあい手術操作を制限し手術の進行の大きな障害となります。これらの干渉を避け、より大きな操作空間で手術を行うためには、少なくとも一本は先端が屈曲する鉗子を用いて腹腔内で鉗子どうしを交差させるcross-over techniqueを習得することが望ましく、この方法で鉗子類の干渉を避けることで操作空間は大幅に広くなるわけです。右手で持つ鉗子は画面の左から、左手で持つ鉗子は画面の右から出てくるので左右の手の動きが画面では逆に写ります。そのため当初は違和感を覚えますが,この動きも練習を重ねるにつれて可能となり、片手操作の比率も減少していくことが確認されています。その難易度の高さからパラレル法で手術を施行している施設も少なくありませんが、それでは臍だけの切開創で手術を施行することは難しく手術時間の延長や創の拡大を余儀なくされ、単孔式腹腔鏡手術を行った意味がなくなってしまうのです。これら技術的難易度の高さから未だ普及定着の域には達していないのが現状ですが当院では腎副腎疾患に対して臍を介したLESSを導入し4年が経過し、これまで100人以上の患者さんに安全に施行してきました。本検討ではこのLESSに伴うcross-over techniqueの有用性を科学的に証明したものです。導入した当初は批判的なご意見を頂くことが多かったこのテクニックでしたが、本学会でようやく認めて頂いたことを非常に嬉しく感じます。

今後はこの技術を継承し当教室における腹腔鏡手術の手技向上に貢献することができれば幸いと考えております。

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第27回日本泌尿器内視鏡学会 ヤングエンドユロロジストアワード 受賞
受賞演題「上部尿路上皮癌に対する腹腔鏡下腎尿管全摘除術の手術難易度規定因子の検討」

受賞者 茂田 啓介

この度、第27回日本泌尿器内視鏡学会に於いてヤングユロロジストアワードを受賞させていただきました。

現在、泌尿器科分野において腹腔鏡下手術は前立腺、腎臓、副腎に対して標準術式となっている一方で、非浸潤性上部尿路上皮腫瘍に対しても低侵襲性をもつ術式として発展しつつあります。しかし、上部尿路上皮腫瘍での腹腔鏡手術における手術手技難易度を予測する客観的因子は未だ報告がありません。よって、本研究では上部尿路上皮腫瘍に対し、術前に利用可能な患者背景因子や画像所見を用いて腹腔鏡補助下腎尿管全摘除術の難易度を予測する術前予測因子について後方視的に調査致しました。

当院でcT3N0M0以下の上部尿路上皮癌と診断され、腹腔鏡または後腹膜鏡を用いて腎尿管全摘除術を施行した70例を対象と致しました。年齢、性別、BMIなどの患者背景に加え、腹部CT検査で評価可能な腫瘍径、腫瘍部位、水腎症の有無、内臓脂肪量を手術難易度の指標として解析しました。内臓脂肪分布の評価としては、内臓脂肪量(Visceral Fat Area)と総脂肪量(Total Fat Area)の比であるVFA/TFA比を用い、また水腎症の程度は当院2名の放射線科医師により5段階に分類致しました。手術手技は腎の遊離を腹腔鏡下で行い、膀胱部分切除術は開放手術にて行いました。

手術難易度の基準として、気腹時間、総手術時間別に検討し、VFA/TFA比が最も高い相関を示しました。また単変量解析の結果、平均総手術時間は内臓脂肪蓄積群(VFA/TFA比≧0.45)で有意に延長しており、また水腎症Grade3以上の群はGrade3未満の群と比較し、有意に総手術時間が延長致しました。多変量解析の結果、気腹時間に限定すると内臓肥満、水腎症の有無は有意な関連を認めないものの、内臓脂肪蓄積群(VFA/TFA比≧0.45)およびGrade3以上の水腎症が総手術時間を延長する独立したリスク因子であることが示唆されました。以上より、内臓脂肪の蓄積およびgrade3以上の水腎症は術前に評価可能な手術難易度の指標として独立した予測因子であることが示唆されました。これらの予測因子を用いることで、今後上部尿路上皮腫瘍の手術を行う上で難易度の層別化を実現し、術者への有用な情報とすることでより安全な医療を提供することを目標としたいと考えております。

私共の研究・提案が伝統ある学会で評価されたことは大変喜ばしいことであり、日本泌尿器内視鏡学会の皆様、放射線診断科の陣崎雅弘先生と秋田大宇先生、また直接の御指導をいただきました萩原正幸先生をはじめ、菊地栄次先生、宮嶋哲先生、大家基嗣教授、そして慶應大学泌尿器科学教室の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

指導医のコメント(菊地栄次)

これまで当教室から、腹腔鏡下手術の難易度を規定する客観的因子として、前立腺、腎臓、副腎の3臓器において、BMIよりも内臓脂肪の蓄積が手術時間に有意に関連することを確認し、報告してきました。一方、今まで上部尿路上皮腫瘍における手術難易度を評価する予測因子については報告がなされておらず、また上部尿路上皮腫瘍の場合、内臓脂肪のほか、水腎症の程度が周囲組織との癒着と関連することも推察されたことより、この2点を中心に解析を進めました。本研究により、高度内臓脂肪蓄積例、高度水腎症合併例では手術難易度の上昇が予想されることが示唆されました。今後は、更に症例を蓄積し、本結果の再確認を行う必要があると考えます。

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第611回 泌尿器科学会 東京地方会 ベストプレゼンテーション賞「Stauffer症候群を呈した腎細胞癌の1例」
受賞者 高松 公晴

このたび、『Stauffer症候群を呈した腎細胞癌の1例』について発表をし、第611回東京地方会でベストプレゼンテーション賞を受賞することができました。Stauffer症候群は1961年にStaufferが報告したもので、腎細胞癌に伴う傍腫瘍症候群のうち、肝転移陰性にも関わらず、腫瘍摘出により改善するものと定義されます。本症例は62歳、男性、主訴は頻尿、全身倦怠感で受診しました。受診時の血液生化学検査にてALP高値、γGTP高値、CRP高値、AST/ALT正常、更にIL-6高値を認めました。画像検査の結果左腎細胞がんと診断され、根治的腎摘除術を施行し、病理結果はClear cell renal cell carcinoma, G3>G2, INFb, v1, ly0, pT3a、切除断端は陰性でした。術後、ALP、CRP、IL-6は速やかに正常化しました。腎細胞がんの3-10%に軽度の肝機能異常が認められるとする報告もありますが、その多くは転移陽性例で、術後の肝機能異常の正常化を追跡していない報告です。本邦でのStauffer症候群としての報告は14例であり、その頻度は明らかにされていません。本症例は限局性腎細胞癌に生じたStauffer症候群であり、術後IL-6の正常化が認められました。今回の発表ではStauffer症候群におけるIL-6の役割について、特に肝細胞並びにkuppfer細胞の関与について考察いたしました。

指導医のコメント(水野 隆一)

腎細胞癌は様々な傍腫瘍症候群を呈することが知られており、そのうち肝転移陰性、術後改善する肝機能異常がStauffer症候群として知られている。しかし肝機能異常を呈する症例は何らかの転移を伴うことが多い。本症例では限局性腎癌であること、IL-6の追跡がなされている点から症例報告を行った。

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第101回日本泌尿器科学会総会賞(尿路上皮腫瘍・基礎部門)受賞演題

『抗がん癌剤治療が誘導する微小環境の変化に着目した浸潤性膀胱癌へのAngiotensin II receptor blocker(ARB)の治療応用』
受賞者 田中 伸之

この度、平成25年4月25日から28日までさっぽろ芸術文化の館で開催されました、第101回日本泌尿器科学会総会において、総会賞(尿路上皮腫瘍・基礎部門)を受賞いたしましたので報告させていただきます。受賞しました演題は、「抗がん癌剤治療が誘導する微小環境の変化に着目した浸潤性膀胱癌へのAngiotensin II receptor blocker(ARB)の治療応用」です。

浸潤性膀胱癌にはシスプラチンを用いた多剤併用化学療法が標準でありますが、腫瘍への抗がん剤治療はVEGF発現亢進を含めた治療後の微小環境の変化を誘導することが示唆されております。当教室ではこれまで、アンギオテンシンII (Ang II)とType I 受容体(AT1R)に注目し、膀胱癌を含む泌尿器科癌においてARBを用いた血管新生阻害による抗腫瘍効果を報告して参りました。今回は浸潤性膀胱癌におけるARBを用いた新規治療について、抗がん癌剤治療が誘導する微小環境の変化に着目し検討を行いました。まず初めに、転移性膀胱癌へのシスプラチン・ARB併用療法により得られる相乗的抗腫瘍効果の相互作用として、シスプラチン投与に伴う活性酸素上昇を介したAT1R発現上昇に伴うVEGF誘導の可能性について検討・報告行いました。次にシスプラチン抵抗性膀胱癌細胞を新たに樹立し、耐性獲得前後の時間軸に沿った蛋白発現解析により、シスプラチン耐性獲得が誘導するAng II依存性の血管新生亢進について報告致しました。また当院における尿路上皮癌データベースを用いて、Ang II阻害薬投与の臨床的有効性も統計学的に解析し報告致しました。
この度、私達の研究が評価され、総会賞を獲得できたことは大変喜ばしいことであり、今回の受賞を励みに、今後さらに研究を進めたいと考えております。最後になりましたが、本研究のご指導を頂きました教室の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げるとともに引き続きご指導賜りたく存じます。

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第26回日本泌尿器内視鏡学会 ヤングエンドユロロジストアワード受賞「Laparoendoscopic single-site adrenalectomy(LESS-A)においてCTによる体脂肪の評価は手術難易度の予測に有用である」
受賞者 長谷川 政徳

この度、第26回日本泌尿器内視鏡学会に於いてヤングユロロジストアワードを受賞させていただきました。

本研究は、近年になり副腎腫瘍に対して開始された単孔式腹腔鏡下副腎摘除術(laparoendoscopic single-site surgery for adrenalectomy ; LESS-A)において、手術難易度への体脂肪の影響について評価したものです。臍1か所からの手術操作は、通常の腹腔鏡下副腎摘除術よりも高度な技術が必要とされます。現在、副腎腫瘍に対するLESS-Aの適応が明確でなく、術前における手術難易度の客観的評価が求められております。

当院にてLESS-Aを施行した連続する50症例を対象とし、術前CTから第四椎体レベルにおける全脂肪域(TFA)、内臓脂肪域(VFA)、皮下脂肪域(SFA)を測定しました。また、脂肪蓄積の分布を評価するため、VFA/TFA比を計算し、VFA/TFA比≧0.35を内臓型脂肪蓄積、<0.35を皮下型脂肪蓄積と定義しました。本研究では、手術難易度の指標として手術時間を採用し検討したところ、VFA/TFA比が手術時間と最も高い相関を示しました。また、単変量解析では、褐色細胞腫、腫瘍径≧5cm、VFA/TFA比≧0.35が手術時間の延長と関連したのに対し、性別、左右、Body mass indexは関連しませんでした。多変量解析では、これらの3因子はそれぞれ手術時間の延長を予測する独立した因子であり、いずれも高いオッズ比を示し、これらの予測因子を用いることで難易度を3段階に層別化することが可能でした。以上より、LESS-Aにおいて内臓脂肪の蓄積は手術難易度を上昇させ、VFA/TFA比はLESS-Aの適応を検討するうえで有用な術前の客観的指標となる可能性が示唆されました。

伝統ある学会でこの様な栄誉をいただきましたことに対し、日本泌尿器内視鏡学会の皆様、放射線診断科の陣崎雅弘先生、腎臓内分泌代謝内科の柴田洋孝先生をはじめ、直接の指導をいただきました宮嶋哲先生と大家教授、そして慶應大学泌尿器科学教室の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

指導医のコメント(宮嶋 哲)

現在まで我々は多くの泌尿器疾患に対し、腹部の3〜5か所の小切開から操作する腹腔鏡下手術を施行してきました。通常の開腹手術と比較して術後疼痛が軽微で早期回復が望めます。これをさらに発展させたのが単孔式腹腔鏡手術Laparoendoscopic single-site surgery (LESS)で、1か所の切開創から内視鏡や鉗子類を挿入し手術を行う腹腔鏡下手術です。臍からアプローチすることで創痕が残らず従来法よりさらに疼痛が軽減する利点があり、いわゆる究極の低侵襲手術「傷のない手術」して世界的に急速に広まっています。当院でも2009年より副腎腫瘍、腎がん、腎盂尿管移行部狭窄症に対して積極的に導入し、既に100症例以上に安全に施行されています。一方、LESSは鉗子の可動域の制限や鉗子同士の干渉、対象臓器までの距離の延長等から通常の腹腔鏡下手術よりも高度な技術が要求されることから、LESSの適応を検討する上で、個々の患者における難易度を術前に予測することが求められています。

本検討では、LESS-Aにおいて内臓脂肪の蓄積は手術難易度を上昇させ、LESS-Aの適応を検討するうえで有用な術前客観的指標となることが示唆されました。本研究の他疾患への応用、prospectiveな検討は現在も継続しており益々の研究成果が期待されるところです。

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第23回日本性機能学会学術総会 学術総会賞(臨床部門)受賞演題
『5α還元酵素阻害剤の性機能に関する影響』
前田 高宏

このたび、『dutasteride 使用後の体内ホルモン変化およびMen’s health への影響』につき検討を行い、第23回日本性機能学会学術総会に於いて、学術総会賞(臨床部門)を受賞することができました。

本研究は、当院外来にてdutasterideを開始した患者を対象とし、本薬剤の勃起能への影響をIIEF5、EHS質問票を用い前向きに評価し、勃起能低下症例に対しPDE-5阻害剤を投与し、その後の勃起能の変化を追跡調査したものです。

本研究の対象患者の平均年齢は72歳で、内服開始時に勃起能をある程度有する人(IIEF5≧8点)は全体の約3割にとどまりました。勃起能を有する人を対象とすると内服前後でIIEF5、EHS値は有意に増悪しdutasteride内服による性機能への影響を少なからず認めました。 一方で、勃起能低下群と非低下群の2群間では、SF36を用いた各種QoLに相違は認めませんでした。また、性機能の低下を理由に本剤の内服中止を希望する患者は全体の1.3%にとどまりました。

dutasteride内服後に勃起能が低下し、その後PDE5阻害剤を併用内服した症例では、性機能がdutasteride内服前のレベルまで回復する可能性が示唆されました。dutasteride内服開始時に、本剤の勃起能へ及ぼす影響について聞き取り調査を行った結果、dutasteride内服開始時に年齢が若く、勃起能が高い人ほど、本剤の性機能に対する副作用を憂慮していることが示唆されました。

本剤内服開始に、特に年齢が若く勃起能を有する患者に対しては、本剤の勃起能へ及ぼす影響や、その変化はPDE5阻害剤内服により可逆的なものである可能性など、排尿機能の変化のみならず、性機能への影響についてもきちんとした情報提供をする必要性があると考えられました。

指導医のコメント(菊地栄次)

Dutasterideは前立腺肥大症の薬物治療薬として広く一般泌尿器科臨床において使用されるようになってきたが、性機能に与える影響に関しては、いまだ議論が絶えない。その副作用として勃起機能障害があげられるが、その発症の基礎的背景は十分には解明されていない。本検討ではIIEF5,EHSの調査により少なからずdutasterideの性機能への影響が認められたが、QoLを損なうことなく、PDE5阻害剤の使用で回復することが確認された。実臨床においてdutasterideの薬理効果、性機能障害を含めた副作用の発現の可能性、そしてその対処方法など十分にインフォームした上での使用が肝要と考える。

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第19回日本泌尿器科学会 学会賞受賞

受賞者: 西本紘嗣郎

私たちの論文「Adrenocortical zonation in humans under normal and pathological conditions. J Clin Endocrinol Metab. 2010; 95: 2296-305」が、平成24年4月23日に横浜で催されました第100回日本泌尿器科学会総会において、第19回日本泌尿器科学会賞を受賞いたしましたので、ご報告申し上げます。
  本研究は、免疫組織化学的手法によって、ヒトのアルドステロン合成酵素とコルチゾールの合成酵素を検出可能にしたことにより、正常副腎皮質や原発性アルドステロン症を含む病態副腎の組織構造を初めて視覚化したものです。その結果、ヒト正常副腎は従来の層状構造(球状層、束状層、網状層)に加え、アルドステロン合成酵素を発現する被膜下細胞クラスター(aldosterone-producing cell cluster: APCCと命名)を含む斑入り状構造を持つことが判明しました。さらにはアルドステロン産生腫瘍、コルチゾール産生腫瘍の機能的な組織像が明らかになりこれらの疾患の確実な病理診断が可能になりました。今後、これらの知見は、副腎皮質の基礎的研究や副腎疾患の病態解明に寄与すると考えます (この論文の和文抄録は、本ホームページ論文紹介NO.13に掲載しておりますのでご参照ください)。

私は現在、米国 (Rainey研究室、Georgia Health Sciences University) に留学し、受賞された研究の成果をさらに発展させるべく奮闘しております。我々の教室が、副腎皮質疾患の病態解明や新たな治療法の開発に大きな役割を果たせるよう、私は今後も微力ながら尽力していく所存です。最後に、ご指導をいただきました大家教授、中川准教授をはじめ、教室員の先生方に重ね重ねお礼申し上げます。

指導医のコメント (中川 健)

原発性アルドステロン症は、高血圧患者の約10%(全人口の1/30)を占めること、および、高頻度に心血管障害を発症することが報告されたことから、近年重要な疾患として捉えられるようになりました。今回受賞された研究は、そのような原発性アルドステロン症の原因であるかもしれないAPCCを初めて報告したこと、および、ホルモン産生能に基づく病理診断を可能にしたこと、の2点により、学術的意義が高いと評価され、今回の受賞につながりました。今後も、APCC発生のメカニズム、APCCにおけるアルドステロン産生の自律性の検討など、当教室における副腎研究の可能性は広がっていくと考えています。

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第31回日本アンドロロジー学会 学術大会臨床部門学会賞

平成24年6月30日(土)
前田 高宏

このたび、『dutasteride 使用後の体内ホルモン変化およびMen’s health への影響』につき検討を行い、第31回日本アンドロロジー学会 学術大会臨床部門学会賞を受賞することができました。
胎生期にはテストステロンはウォルフ管に直接作用し、精巣上体、精管、精嚢が分化し、DHTを介する間接作用により陰茎、陰嚢、前立腺が分化します。一方、本研究に於いて検討したdutasterideは5α還元酵素を阻害することで血中および標的組織中のDHTが90%以上抑制され相対的にテストステロンが10-20%上昇することが知られています。この体内のアンドロゲンバランスの変化が、中年期以降のMen’s healthにいかに影響を及ぼすのか、体内男性ホルモン測定とともにIIEF5,EHS,AMS質問票を用いて検討を行いました。
全体症例では血清総テストステロン(処方前:4.0、3ヶ月後4.6μg/dl)、遊離テストステロン(処方前:7.8、3ヶ月後8.9ng/ml)は内服前後でそれぞれ約20%増加し、上昇幅は、内服前の値が低い症例ほど顕著でした。性機能は、内服前のIIEF5値が8点以上の正常-中等症例(31例)を対象にすると、内服前後でIIEF5値(処方前:15.6、3ヶ月後12.1)、EHS値(処方前:2.8、3ヶ月後2.4)はいずれも悪化しました。AMSスコアは、内服前の遊離testosterone値8.5ng/ml 以下、AMSスコア37点以上(中等症以上)かつ早朝の勃起の回数の自覚低下が重症以上(AMSスコアQ16 が4点以上)の26例に限ると、AMSスコアは内服前後でTotal Score(47.7→43.0)、身体ドメイン(18.8→16.7)、精神ドメイン(10.5→9.8)、性ドメイン(18.4→16.5)と全体および各ドメインスコアの改善を認めました。3点以上AMSスコアが改善した群では、総および遊離testosterone値の上昇を伴ったのに対し、非改善群では、本剤内服前後の男性ホルモンの上昇は認めないという結果でした。

本剤は、Androgenの体内バランスの変化をもたらし、排尿機能改善効果だけでなく、Men’s healthに関する臨床症状に影響を及ぼす可能性が示唆されたため 、今後は更なる症例を積み重ね多方面からホルモンバランスを検討していく必要性を感じました。

指導医のコメント(菊地栄次)

近年、本邦で30ml以上の前立腺肥大症に使用可能となったdutasterideに注目し、我々は前向き臨床研究を行っている。本演題はその一つで、dutasterideが性ステロイド、勃起機能、LOH症状にどのように影響を与えるのかを検証した結果である。本演題ではdutasterideは血中テストステロンをおよそ20%上昇させ、一部の症例ではAMSスコアの改善を認めている。一方、IIEF-5を用いた勃起能の検討では少なからずIIEF-5の悪化を認める症例が存在した。今後はdutasterideの性機能、LOH症状への影響を説明しうる基礎的研究の積み重ねが重要であると考える。



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第6回ヤングリサーチグラント受賞

『抗がん癌剤治療が誘導する微小環境の変化に着目した転移性膀胱癌の新規治療標的の探索』
受賞者:田中 伸之

分子標的治療薬を初めとした治療オプションの増加に伴い、転移性膀胱癌に対しても様々な新規レジメンが考案されてきております。しかし治療的有用性は、依然CDDPを中心とする多剤併用化学療法(MVACやGC療法)がファーストラインに位置づけられるのみに留まっております。この理由として、既存の多くの研究は抗癌剤耐性の機序解明に留まり、耐性獲得下で有効な治療標的と成りうる分子基盤を示唆する知見が乏しいことが原因と考えました。これまで当教室では膀胱癌における抗癌剤投与とその後の血管新生亢進の可能性に着目し、CDDP治療後のVEGF発現上昇及びその抑制による著明な抗腫瘍効果の増強を報告致しました。また独自にCDDP耐性株を樹立し、CDDP耐性獲得後の血管新生亢進を中心とした微小環境の変化及びその制御によるCDDP耐性株への著明な抗腫瘍効果の報告も行ってきました。以上の経験から、抗癌剤治療及び耐性獲得により誘導される微小環境の変化やその原因となるシグナル伝達の更なる解析は、転移性膀胱癌における新たな治療標的分子の探索に重要と考え、本研究の着想に至りました。本研究では樹立したCDDP耐性株を用いて、耐性獲得後のシグナル変化を時間軸に沿った系統性に基づき解析を行うことを予定しております。この度、私達の研究・提案が評価されたことは大変喜ばしいことであり、本受賞を励みに益々研究に精進したいと考えております。最後になりましたが、御指導賜っております教室の先生方に厚く御礼申し上げたいと思います。

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第100回日本泌尿器科学会総会賞受賞演題

第100回日本泌尿器科学会総会賞(尿路上皮腫瘍・基礎部門)受賞演題

『尿路上皮癌におけるSNAILの発現と、微小環境におけるEMT制御機構の解明』
受賞者:小坂威雄

この度、平成24年4月21日から24日までパシフィコ横浜で開催されました、第100回日本泌尿器科学会総会において、総会賞(尿路上皮腫瘍・基礎部門)を受賞いたしましたので報告させていただきます。受賞しました演題は、「尿路上皮癌におけるSNAILの発現と、微小環境におけるEMT制御機構の解明」です。

今までに我々は、癌の浸潤・転移に関与する上皮間葉転換(EMT)関連因子のうち、尿路上皮癌(Urothelial Cancer: UC)においては、E-cadherinの発現と細胞浸潤能を制御する転写因子SNAILの発現が有意で、かつ機能的であることを報告してきました(Kosaka T. et al. Clin. Cancer Res. 2010)。今回、過去25年間の当院におけるUC 260症例(腎盂・尿管癌: UTUC ; 196例、浸潤性膀胱癌: BT ; 64例)を対象とし、SNAILの核内の発現を免疫組織化学的に検討し、各種の臨床パラメーターとの関連を解析しました。その結果UTUC, BTにおいてSNAILの発現は高Grade、高Stage、LVI陽性例において有意に高く、生存解析では、UTUC、BT伴にSNAIL高発現群は低発現群に比して有意に予後不良であることが明らかになりました。多変量解析では、SNAIL高発現は独立した予後規定因子であることが明らかになりました。UC細胞株(5637, T24, UMUC-3)を対象とし、E-cadherin, Vimentin, MMP2, MMP9の発現と浸潤能を比較検討し、siRNA法を用いてSNAILの機能解析を施行しました。UMUC-3はT24や5637に比して、SNAIL, Vimentin, MMP2, MMP9の発現が高く、E-cadherinの発現が低く、浸潤能が有意に高く、siRNA法によりSNAILを特異的に抑制したところ、Vimentin, MMP2, MMP9の発現を有意に抑制し、その際に浸潤能を抑制しました。低酸素の培養条件は、SNAIL低発現株のT24, 5637においてHIF-1α、SNAIL、Vimentinの発現を時間依存性に誘導し、E-cadherinの発現を抑制し、浸潤能を有意に亢進させました。そこで、HIF-1阻害剤(HIF-1i)を使用したところ、HIF-1iは一連のEMTの誘導を抑制しました。以上からUCにおいて、SNAILはEMTを制御する中心的役割を担う予後規定因子であり、低酸素環境は、その発現調節の一端を担うことが明らかになり、また、SNAILは難治性UCにおける新規分子標的となり得ると考えられました。

この度、私達の研究が評価され、総会賞を獲得できたことは大変喜ばしいことであり、今回の受賞を励みに、さらに粛々と研究を進めたいと考えております。最後になりましたが、本研究のご指導を頂きました病理学教室の三上修治先生、岡田保則先生、他様々な面でサポートして頂いた教室の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げるとともに引き続きご指導賜りたく存じます。

指導医のコメント(菊地栄次)

EMTは腫瘍の浸潤・転移機構において病態生理学的意義の中心を担うと考えられています。しかしながら、尿路上皮がん(上部尿路および膀胱)において、EMTに関する検討は、ほとんどなされておらず、またその制御機構も明らかにされておりません。そこで今回、当大学病理学教室との共同研究を通して、尿路上皮がんにおいては、SNAILがEMTを制御する中心的役割を担う予後規定因子であり、更にがん微小環境のうち低酸素環境が、その制御機構の一端を担うことが明らかとなりました。SNAILは難治性UCにおける新規分子標的となり得ると考えられ、UCの生命予後の改善に向けて、抗がん治療耐性機構との関連など、今後も引き続き、臨床応用に向け、更に検討を進めていく必要があると考えます。



第100回日本泌尿器科学会総会賞受賞演題

『急性細菌性前立腺炎における重症化予測アルゴリズムの作成』
受賞者:矢澤 聰

抄録

背景

前立腺炎は男性の半数以上が一生に一度は罹患すると言われており、50歳以下で最も一般的な泌尿器科疾患である。急性細菌性前立腺炎(Acute Bacterial Prostatitis: ABP)は、泌尿器科以外の医師が初療にあたる場合も多く又、重症例では敗血症を来たし得るので、初療時に重症例を見逃さないことが重要である。しかしながら本症の診断基準や、重症度判別基準は確立されておらず、診断、治療に至るまでのコンセンサスは得られていない。

対象と方法

1999年から2011年の間にABPと診断された208例を対象とした。組み入れ基準は、日本化学療法学会の臨床試験ガイドラインを参考にした。又、重症の定義は以下とした。 (1)24時間以上遷延するショック(2)加療中に認めたショック(3)血液培養陽性(4)前立腺膿瘍の形成の内、一つ以上満たした症例。平均年齢64.7歳、重症43例、非重症165例であった。ABPの重症例と非重症例とを比較、検討を行った上で、明らかになった重症化予測因子を用いて初期診療アルゴリズムを作成した。さらにアルゴリズムの転帰に関する感度、特異度と、泌尿器科医による診療の転帰に関する感度、特異度とを比較、検討した。

結果

(1)年齢(2)尿道カテーテル留置(3)意識障害(4)血圧低下(5)白血球数(6)BUNの6項目で統計学的有意差を認めた(P<0.05)。尚、CRPは有意差を認めなかった。これらの因子を中心に作成したアルゴリズムの感度、特異度はそれぞれ88.4%、87.3%であったのに対し、専門医による診療の感度、特異度はそれぞれ83.7%、61.8%であった。

考察

市中肺炎の重症度スコアであるCURB65の5項目の内、4項目(年齢、意識障害、血圧低下、BUN)で有意差を認め、重症感染症における疾患横断的な共通性が示唆された。本アルゴリズムは重症化の判別に高い感度、特異度を持っており、初療時の標準的診療レベルを高める可能性が示唆された。また不要な採血、入院を回避できる可能性が示唆された。

結語

ABPの重症化予測アルゴリズムを作成した。本アルゴリズムは臨床的にも妥当であると考えられ、ABPの初期診療指針となる可能性が示唆された。

指導医のコメント (長田浩彦)

急性細菌性前立腺炎は、泌尿器科領域では重症感染症と考えられ、重症化する症例を見極めることが重要であるが、充分な研究はなされていない。本研究は急性細菌性前立腺炎の重症化予測因子の解明と、重症化予測アルゴリズムの作成を目的としている。本研究は後方視的な研究で、症例数も限られているが、今後多施設共同前向き試験を検討中であり、臨床現場での一助となる真のアルゴリズムが確立されることを期待する。

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第49回日本癌治療学会優秀演題賞受賞

第49回日本癌治療学会優秀演題賞受賞演題

『上部尿路上皮癌における5-FU代謝関連酵素TS、DPDの臨床的意義』
受賞者:菊地栄次

抄録

目的

近年、5-FU分解酵素であるDPDの強力な阻害効果を持つ5-FU系抗癌剤、S-1が消化器癌において使用されている。TS、DPD値はS-1の感受性と強く関連すると報告されている。今回、多数例の上部尿路上皮癌においてTS、DPD発現と予後との関連を検討した。

対象と方法

1986年から2007年に当院で手術治療を施行した上部尿路上皮癌176例を対象とした。TS、DPDの発現を免疫染色で検討し、臨床病理学的所見との関連を調べた。また生存率の解析をKaplan-Meier法、Coxの回帰モデルを用いて行った。

結果

TSの発現は、TaG1/2壁内脈管侵襲(LVI)陰性例では弱く、一方T3G3LVI陽性例では強く認めた。TSの発現量は病理病期、Grade、リンパ節転移、LVIの有無と有意な関連を認めた。DPDの発現はGradeのみ有意に関連していた。多変量解析においてTSの発現量、病理病期、LVIは独立した予後予測因子であった。5年生存率はTS強発現群では60%であるのに対してTS弱発現群では95%であった。さらに病理病期pT2以上の93例に限って検討を行うとLVIとともにTSの発現量が独立した予後予測因子であり、5年生存率はTS強発現、弱発現群でそれぞれ43%、84%であった。DPDの発現は生命予後との関連を認めなかった。

結論

上部尿路上皮癌症例において、TSの発現量は予後予測因子として重要であり、特に局所浸潤癌においては強い予後因子であることが示唆された。

内容に対するコメント (菊地栄次)

本研究は、多数例の上部尿路上皮癌検体を用いて5-FU関連因子であるTS、DPDが予後にどのように影響を与えているかを検討した。当教室の井手広樹先生が精力的に行った研究成果である。上部尿路上皮癌の臨床において、TSがkey enzymeとなる可能性が示唆され、DPDはgradeと関連が強く、ゆえにgradeの高い腫瘍においては、S-1が有用な薬剤になりえると思われた。

ここでさらに基礎研究においてTS、DPDの制御が膀胱癌細胞に抑制的に働くかの検証を加えた。膀胱癌細胞株であるT24において、TS活性は高く、DPD活性はUMUC-3 膀胱癌細胞株で高かった。UMUC-3細胞にDPD阻害剤であるギメラシルを併用することで、5-FUの殺細胞効果増強が確認された。DPDに対するsiRNAを用いても同様に5-FUの殺細胞効果の増強を認めた。さらにin vivoにおいてS-1で有意に抗腫瘍効果を認めた。

本研究の免疫染色のデータ結果、基礎研究の検証結果より、尿路上皮癌においてS-1が新たな治療として今後期待されると考える。



第49回日本癌治療学会優秀演題賞受賞演題

『BCG relapsing筋層非浸潤性膀胱癌に対する追加治療の検討』
受賞者:松本一宏

抄録

目的

BCG治療抵抗性筋層非浸潤性膀胱癌、いわゆるBCG failureには初回BCG治療6カ月以内に腫瘍消失を認めない症例(BCG refractory)、BCG治療非完遂症例(BCG intolerant)、BCG膀注後6ヶ月以降の再発症例(BCG relapsing)など種々のものが含まれる。これらを同一に取り扱うことはBCG治療後の治療指針の一貫性を大きく損なう。今回多数のBCG relapsing症例における追加BCG注入療法の意義を検証した。

対象

保存的加療のBCG relapsing症例(N=183)を対象とし、その後の再発、進展の危険因子を同定した。平均観察期間は約5年であった。

結果

BCG relapsing腫瘍に対してTUR-BTのみの治療が40例に、追加BCG膀注が119例に、抗癌剤膀注が24例に施行された。Relapsing腫瘍の病理学的high risk所見(pT1 and/or Grade3 and/or concomitant CIS)が独立したその後の腫瘍再発予測因子であった。また追加BCG膀注は有意にその後の再発を予防することが証明された。その後の腫瘍進展に関してもrelapsing腫瘍の病理学的high risk所見は独立した予測因子であったが、BCG膀注のその後の進展予防効果を認めなかった。

結論

BCG relapsing腫瘍に対しては、その後の再発を有意に予防する追加BCG膀注が有用であると考えられた。しかし病理学的high risk所見をもつ腫瘍はその後進展する可能性があり、またBCG膀注の進展予防効果もないため、膀胱全摘術も考慮すべきであると考えられた。

指導医のコメント(菊地栄次)

BCG failureの取り扱い、治療指針に定まったものは存在しない。一番の問題点はその定義が存在しないことである。本研究の前に、当教室では、BCG failureを上記のとおり4つの群に分けることの臨床的意義につき検討を行った。BCG refractory症例は、他の群に比べて明らかにその後のstage progressionの割合が高いことが確認された。より均一なBCG failure群を取り扱うことが臨床上きわめて重要であることが立証された。結果はBJU internationalにin pressである。本研究は、BCG relapsingのみに注目し、果たして再度BCG注入療法を施行することで再発、進展が予防できるのか?という疑問点を解決すべく行われた。今後、high risk腫瘍に対してmaintenance BCG療法が広く行われるようになるが、maintenance BCG療法後のBCG relapsingに対して同様に取り扱うべきか興味があるところである。



第49回癌治療学会優秀演題賞受賞演題

『上部尿路上皮癌患者のRenin-angiotensin系阻害を介した術後再発予防効果の検討』
受賞者:田中伸之

抄録

目的

様々な癌腫の基礎研究においてRenin-angiotensin系阻害を介した抗腫瘍効果が報告されているが、臨床におけるRenin-angiotensin系阻害薬(ACE阻害薬及びARB)と予後の検討は少ない。我々は上部尿路上皮癌患者の術後再発におけるRenin-angiotensin系阻害の有用性を後ろ向きに検討した。

方法

腎尿管全摘術が施行された上部尿路上皮癌患者の内、詳細な降圧剤内服(Ca拮抗薬・βブロッカー・利尿剤・ACE阻害薬・ARB)の調査が可能であった265例(男性198:女性67)を対象とした。平均観察期間は4.6年であった。臨床病理組織学的因子に加え降圧薬内服の詳細と予後を統計学的に検討した。

結果

観察期間に56例(21.1%)に術後再発が認められた。降圧剤投与が確認された108例中47例にACE阻害薬又はARBが投与されていた。単変量解析ではgrade、pT、LVI、周術期化学療法施行の有無と共にACE阻害薬・ARB内服の有無が有意に術後再発と関連した。多変量解析の結果、pT2以上(HR3.23、p=0.025)又はLVI陽性(HR3.03、p=0.001)と共にACE阻害薬・ARB内服の有無(HR2.77、p=0.048)がそれぞれ術後再発に関連する独立した危険因子であった。5年無再発生存率はACE阻害薬・ARB内服群:91.4%、対照群:78.4%であり、ACE阻害薬・ARB内服群で有意に再発抑制が確認された(p=0.028)。

結語

上部尿路上皮癌患者へのRenin-angiotensin系阻害を介した再発予防効果の可能性が示唆された。

指導医コメント(宮嶋 哲)

当教室ではこれまで約10年にわたり、泌尿器科癌におけるアンギオテンシン1型受容体(AT1R)阻害剤 (AT1R blocker:ARB) の血管新生阻害を介した抗腫瘍効果を報告してきました(Miyajima A et al. Cancer Res 2002, Kosugi M et al. Clin Cancer Res 2006, Kosaka T et al. Prostate 2007)。膀胱癌においては、ARBと抗癌剤、特にCDDPとの併用療法について検討し、著明な抗腫瘍効果の増強を報告しております(Kosugi M et al. Urology 2009, Tanaka N et al. Mol. Cancer Ther 2010)。また膀胱癌の臨床検体を用いた免疫組織学的検討では、悪性度の高いHigh grade/stage症例でのAT1R発現上昇が確認され(Shirotake S et al. Urology 2011)、AT1Rが尿路上皮癌における新たな治療標的となり得る可能性が示唆されております。本研究は、現在確立した治療指針のない上部尿路上皮癌において、術後再発予防としてのRAS阻害の有用性を慶應義塾大学病院及び当教室関連施設のデータベースを用い検討しております。今後は本研究成果を根拠に、泌尿器科癌におけるARB投与の有用性とその基礎的背景の解明に力を注ぐ予定であります。

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第20回日本泌尿器科学会研究助成金獲得

『分子標的薬に対する耐性機序の解明を目的とした腎細胞癌における上皮—間質転換の意義』
助成金獲得者:大家基嗣教授

2008年に血管新生阻害薬である分子標的薬、sorafenib(ネクサバール®) とsunitinib(スーテント®)が相次いで承認され、腎細胞癌治療は大きな変革を遂げた。さらにmTOR(mammalian target of Rapamycin)阻害薬であるeverolimus (アフィニトール®)とtemsirolimus(トーリセル®)も2010年に承認された。現在臨床の場で最も大きな課題は、薬剤の効果が持続せず、耐性となることである。患者によっては、PD(progressive disease)となって薬剤を中止すると、急激に病勢が進行する、いわゆるリバウンド現象が認められる。この問題を耐性がん細胞の上皮—間質転換(EMT:epithelial-mesenchymal transition)という側面から解析しようとする試みである。これまでに腎細胞癌のEMTの研究を行い、腎細胞癌の組織を系統的に解析すると、病期の進行と悪性度が高い組織においてE-cadherinとsnailの発現が逆相関しており、snailがE-cadherinの発現を抑制していることを発見した(未発表データ)。この知見をもとに、薬剤耐性とEMTを関連づける。分子標的薬による治療後、すべての細胞は死滅せず、生き残った細胞が耐性とリバウンドに関与していると考えられる。分子標的薬による治療後に原発巣である腎臓あるいは転移巣の切除標本を解析する。これまでに行った摘出腎での予備的解析では、EMTを示唆する紡錘形細胞から構成される癌組織の存在を確認している。この生き残った細胞群の特徴を明らかにすることによって分子標的薬の耐性のメカニズムを明らかにできると考えている。

なお、本助成金は日本泌尿器科学会が支給する年間一件のみの助成金である。

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第5回ヤングリサーチグラント受賞

『難治性前立腺癌の進展プロセスと微小環境ネットワークに着目した、包括的な新規治療戦略の確立』
受賞者:小坂 威雄

現在、本邦においても前立腺癌の罹患率は、高齢化社会、日常臨床におけるPSAを用いた検診の普及により増加傾向をたどっています。再発・進行癌に対するホルモン療法後の、再燃性・進行前立腺癌(去勢抵抗性前立腺癌:Castration Resistant Prostate Cancer; CRPC)に対する有効な治療はなく、未だ研究の途上であります。この難治性CRPCに対する新規治療戦略の確立のための基礎研究、ならびに臨床研究は、我々泌尿器科医に課せられた急務の課題と考えます。当教室における泌尿器科癌、泌尿器科良性疾患の基礎・臨床研究から得られた知見から、それらは未だ不十分であり、がんを取り巻く微小環境という概念を研究に導入していく必要性を、改めて強く認識するに至りました。今回、CRPCの進展過程の解析のための実験系の確立とその解析から、包括的治療戦略の確立を通し、広く患者さんや社会に還元したいという強い思いを抱き、研究助成を申請いたしました。適宜、適切な新規薬剤(抗がん剤、分子標的治療薬)の選択、高齢者を対象とすることを念頭に置いた効果的な併用薬、治療介入のタイミング、についても合わせて研究を進めていきたいと考えています。この度、私達の研究・提案が評価され、グラントを獲得できたことは大変喜ばしいことであり、今回の受賞を励みに、さらに粛々と研究を進めたいと考えております。最後になりましたが、ご指導賜っております教室の先生方に、厚く御礼申し上げるとともに、引き続きご指導賜りたく存じます。

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第99回日本泌尿器科学会総会 総会賞受賞演題
『膀胱癌におけるアンギオテンシンII 1型受容体発現と微小血管密度の臨床的意義に関する検討』
受賞者:城武 卓

抄録

目的

近年、悪性腫瘍におけるアンギオテンシンII1型受容体(AT1R)の発現と微小血管密度(MVD)の関連と重要性を示唆する報告が散見される。しかしながら具体的な臨床的意義を検討した報告はない。我々は膀胱癌におけるAT1Rの発現とMVDの臨床的意義について検討した。

方法

当院で初回経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)を施行し、観察期間が2年以上の108例を検討した。CIS を含む症例やTURに伴うアーチファクトが強い症例、さらに3ヶ月以内に膀胱内再発を認めた症例は除外した。TUR切片を用いてAT1RおよびMVDとしてCD34の免疫組織染色を行い、各種臨床的パラメータ(pT stage、tumor grade、tumor multiplicity、およびBCG膀胱注入療法の有無)との関連を統計学的に検討した。

結果

平均観察期間は84ヶ月(26-174ヶ月)、初回TUR平均年齢は66.6歳(41-80歳)であった。筋層浸潤癌(MIBC)は29例、筋層非浸潤癌(NMIBC)は79例であった。MVD はNMIBCよりMIBCでより高発現していた。AT1RはNMIBCやlow gradeと比較してMIBCやhigh gradeの症例でより強く発現し、MVDと有意に相関した(p<0.05)。これらはMIBCにおける局所進展や転移、癌特異的生存率、およびNMIBCにおけるMIBCへの進展と有意な相関を認めなかった。しかしNMIBCの膀胱内非再発率を単変量解析で検討すると、AT1Rの高発現、MVDの高発現、tumor multiplicity、BCG 膀注療法無しが有意な危険因子であった。多変量解析の結果、5年膀胱内再発の独立危険因子はtumor multiplicityとBCG膀注療法無しであったが、1年膀胱内再発の独立危険因子はAT1R高発現( p=0.01)とMVD高発現( p=0.001)であった。

結語

初回TUR切片におけるAT1Rの発現とMVDはNMIBCの早期膀胱内再発に関与していた。これらは新たな膀胱内再発の予測因子ならびに治療標的となり得る可能性が示唆された。


指導医コメント(宮嶋 哲)

レニンーアンギオテンシン系(RAS)が、悪性腫瘍の進展に直接的・間接的に関与するという知見が集積されてきており(Nature Review Cancer 2010)、当教室においては、泌尿器科癌において、アンギオテンシン1型受容体(AT1R)阻害剤 (AT1R blocker:ARB) の血管新生抑制作用を介した抗腫瘍効果を報告してきました(Miyajima A et al. Cancer Res. 2002, Kosugi M et al. Clin Cancer Res. 2006, Kosaka T et al. Prostate 2007)。膀胱がんにおいては、ARBと抗癌剤、特にCDDPとの併用療法について検討し、著明な抗腫瘍効果の増強を報告しております(Kosugi et al. Human cell, 2007, Kosugi et al. Urology, 2009)。また、その分子機構としてROSの上昇を介したAT1Rの発現誘導を明らかにし、報告しました(Tanaka N et al. Mol. Cancer Ther 2010)。膀胱がんにおける、AT1Rの発現に関し、臨床統計学的解析を行った報告はなく、今回、TUR検体を対象として血管新生と合わせて、免疫組織学的に検討しました。その結果、AT1RとMVDはNMIBCの早期膀胱内再発に関与し、新たな膀胱内再発の予測因子ならびに治療標的となり得る可能性が示唆されました。これら一連の研究成果を根拠に、慶應義塾大学関連病院における施設の倫理委員会の承認を得て、現在、表在性膀胱癌におけるARB投与における治療効果の検討を開始しています。

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第48回日本癌治療学会優秀演題賞受賞演題

『低・中リスク群の初発筋層非浸潤性膀胱癌に対するBCG膀胱注入療法の治療的意義』
受賞者:菊地栄次

抄録

目的

初発筋層非浸潤性膀胱癌の低・中リスク群に対するBCG膀胱注入療法の治療的意義の検証を行った。

方法

過去25年間に当院でCISを併存しないlow grade初発筋層非浸潤性膀胱癌241例を対象とした。患者背景、臨床・病理学的所見、膀注療法の有無と再発および腫瘍進展の関連を検討した。

結果

初発low grade、pTa腫瘍 (N=198)を低リスク群と定義した場合、単発・多発の違い、膀注療法の有無が独立した再発予測因子であった。単発 (N=117)、多発 (N=81)で分けた場合、膀注療法は多発腫瘍で独立した再発予防因子であった。単発腫瘍において膀注療法群、無治療群の5年非再発率はそれぞれ79.8%、61.2%であり有意差を認めなかった。低リスク群の単発腫瘍のうち、pT1以上あるいはG3に悪化進展を認めた症例は7例で、うち3例は5年以上経過した症例であった。次いで多発、low grade、pTaあるいはlow grade、pT1症例を中リスク群 (N=124)と定義した場合、BCG膀注群、MMC膀注群、無治療群の5年非再発率はそれぞれ64.4%、49.8%、22.3%であり膀注療法は独立した再発予防因子であった。中リスク群では1例に腫瘍進展を、3例に上部尿路再発を認めた。

結語

low grade初発筋層非浸潤性膀胱癌は腫瘍進展率が低く、JUA guidelineに準拠した形で多発low grade、Ta腫瘍を中リスク群として取り扱った場合、BCG膀注は低リスク群では再発抑制に影響を与えず、中リスク群では有意な再発抑制効果を示した。


内容に対するコメント(菊地栄次)

AUA、NCCN、EAUにおいて筋層非浸潤性膀胱癌に対するガイドラインが作成され、本邦においてもJUAのガイドラインが刊行されました。これらのガイドラインにおいてリスク分類は多少異なります。今回は、初発、low grade Taにおいて単発腫瘍、多発腫瘍が低、中リスク群のいずれにリスク群として取り扱うのが妥当であるかの検証を行いました。単発腫瘍ではBCG注入療法による再発予防効果が認められなかったのに対して、多発腫瘍では再発予防効果を認めました。またG3Ta, pTis, all pT1, concomitant CISへ進展、上部尿路再発、pT2以上の筋層浸潤をworsening progressionと定義したところ、単発腫瘍に比べ、多発腫瘍でよりworsening progressionを認めました。

以上のことから初発、low grade Taにおいて単発腫瘍は低リスク群、多発腫瘍は中リスク群として取り扱うのが妥当と判断しました。今後、日本独自のデータの蓄積に基づいた筋層非浸潤性膀胱癌診療ガイドラインの構築、再検証が必要と考えます。

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第47回癌治療学会優秀演題賞受賞演題

『筋層非浸潤性膀胱癌の経過中の膀胱内再発回数とその後の膀胱内再発及び腫瘍進展の関係』
受賞者:田中伸之

抄録

目的

筋層非浸潤性膀胱癌の経過中の膀胱内再発回数が、その後の膀胱内再発及び腫瘍進展に与える影響を検討した。

方法

膀胱内再発回数は初回治療より2年以内に再発した回数とし、筋層非浸潤性膀胱癌と診断され初回治療が行われ、かつ2年間の保存的治療が可能であった442例(男性371:女性71)を対象とした。平均年齢は64.9±11.4歳、平均観察期間は7.4年であった。年齢、性別、臨床病理組織学的因子(Grade・pT・多発性・CISの有無)、膀胱内注入療法(BCG及び化学療法)の有無、膀胱内再発回数とその後の膀胱内再発および腫瘍進展の関係を統計学的に検討した。

結果

初回治療より2年間で100例(22.6%)に1回の膀胱内再発を認め、42例(9.5%)に2回以上の膀胱内再発を認めた。多変量解析の結果、2年以後の膀胱内再発には多発性の有無・BCG膀胱内注入療法の有無・2回以上の膀胱内再発の既往がそれぞれ独立した危険因子であった(p<0.05)。腫瘍進展についてはG3の有無・pT1の有無・CISの有無と共に2回以上の膀胱内再発がそれぞれ独立した危険因子であった(p<0.05)。

結語

筋層非浸潤性膀胱癌における経過中の膀胱内再発回数はその後の膀胱内再発及び腫瘍進展を予測する独立した危険因子であり、短期間に多数回再発する症例は慎重な経過観察が必要と思われた。


指導医のコメント(菊地栄次)

筋層非浸潤性膀胱癌の膀胱内再発及び腫瘍進展に関しては様々な因子がその予測因子として報告されております。経過中一定期間における膀胱内再発の頻度が再発、特に腫瘍進展に与える影響については殆ど今まで検討がなされていないのが現状です。この理由としては1)膀胱内再発の頻度の検討を行う場合、比較的長期の観察期間が必要であること、2)詳細な経過追跡のデータの収集が重要であること3)腫瘍進展を評価する場合その頻度が比較的少ないことから、より多くの症例数がその解析に必要であることが理由として挙げられます。

本研究では当院の膀胱癌症例約500例をreviewし、平均観察期間7.4年のもと、膀胱内再発の頻度が膀胱内再発及び腫瘍進展へ影響するかどうかをretrospectiveに検証しています。多変量解析の結果、頻回の膀胱内再発の既往(recurrence rate 1回/年)は独立した再発、進展の危険因子であることが確認されました。頻回の膀胱内再発の既往を持つ筋層非浸潤性膀胱癌は悪性度が高いことが示唆されます。より早期の膀胱全摘の施行が望まれると考えられます。



『非筋層浸潤性膀胱癌術後のMitomycin C膀注施行時の尿中pH値と腫瘍再発の関連性』
受賞者:前田高宏

抄録

背景

筋層非浸潤性膀胱癌の中あるいは高再発リスク群にmitomycin C (MMC)膀注補助療法が行われるが、その際に尿をアルカリ化することが重要と言われている。一方でその科学的根拠は充分に検討がなされていない現状がある。

方法

1985年から2008年までに当院にて筋層非浸潤性膀胱癌に対しTUR‐BTを施行した患者のうち、術後にMMCを膀注した124例のうち尿中pH値の測定を行った118例(男90女28)を対象とした。mitomycin C膀注施行時の尿中pH値と腫瘍再発の関連についての検討を行った。

結果

平均年齢は68歳。MMC施行時の平均尿pH値は5.73であった。尿pH値5.5を基準に2群に分類した(尿pH5.5未満35例,pH5.5以上83例)。再発に関し解析を施行したところ、多発腫瘍(p=0.045、HR1.77)と尿pH値5.5未満(p=0.015、HR2.01)が独立した再発危険因子であった。3年、5年非再発率は、pH5.5未満でそれぞれ58.4%、34.8%に対し、pH5.5以上で65.9%、39.1%であった(p=0.019)。MMC膀胱内注入療法時の副作用は51人(43.2%)に、治療中断例は6人(5.1%)に認められたが、尿pH値と副作用の出現や治療中断との間に関連性は認めなかった。

結論

MMCの術後膀注療法施行時に尿をpH5.5 以上に保つことは、腫瘍再発予防効果を高める可能性が示唆された。


指導医のコメント(菊地栄次)

筋層非浸潤性膀胱癌の中あるいは高再発リスク群にmitomycin C (MMC)膀胱内注入療法が用いられますが、その治療成績は充分とは言えません。さらなる治療成績の向上が期待されている現状があります。尿のアルカリ化はそのMMC膀胱内注入の成績向上が期待できると報告されております。しかしながらその科学的根拠は充分に検証されておりません。本研究では、当院でMMCを膀胱内注入した膀胱癌症例において尿中pHと腫瘍再発について再検討を行いました。

MMC施行時の平均尿pH値を算出し、尿pH値5.5を基準に2群に分類した上で、腫瘍再発に関し、多発腫瘍と尿pH値5.5未満が独立した危険因子であることが確認されました。一方、MMC膀胱内注入療法時の副作用・治療中断に関しては、尿pH値との間に関連性は認めませんでした。MMCの術後膀注療法施行の際に尿をpH5.5 以上に保つことが治療成績に影響することが確認された訳です。

今回の研究はあくまでretrospectiveな研究です。しかしながら尿をアルカリ化することは実臨床において充分可能な工夫点でもあります。今後前向き検討で真のEBMが確立することを期待します。


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第74回日本泌尿器科学会東部総会優秀演題賞受賞演題

『膀胱全摘除術後、上部尿路再発の検出における尿細胞診の臨床的意義』
受賞者:吉峰俊輔

抄録

目的

膀胱全摘除、尿路変向術後の上部尿路再発(UTR)診断において尿細胞診検査の有効性について検討した。

対象と方法

1987年1月から2005年12月までに当院において施行された、膀胱全摘除術のうち、組織学診断で尿路上皮癌である125例を対象とした。手術時の平均年齢67.6歳、男性89人、女性36人。尿路変向は回腸導管73人、自己導尿型32人、自排尿型19人、尿管皮膚ろう1人であった。観察期間の中央値は64ヶ月であった。なお、class III以上を尿細胞診陽性例と判断した。

結果

UTRは8例に認められた。術後尿細胞診陽性は17例であった。UTR例のうち2例は尿細胞診陰性であった。UTR診断における尿細胞診検査の感度(SE)は75.0%、特異度(SP)は90.6%であった。また、尿細胞診陽性が定期的画像検査(CT、MRIなど)に先行して検出された場合、SEは37.5%、SPは88.0%であった。尿細胞診陽性となった17例のうち11例(64.7%)が経過観察にて陰性化し、3例(17.6%)が画像検査に先行して陽性となり、また、残りの3例(17.6%)は定期画像検査による確定診断後に陽性となった。

考察

尿路変向後の尿細胞診検査はその判断に特別な配慮を要するため、一度陽性が出た際は、尿細胞診の再検をすることで、慎重に判断する必要があると考えられた。


指導医のコメント(菊地栄次)

本検討は、浸潤性膀胱癌に対する根治的膀胱全摘除術後、尿路変向後に採取する尿細胞診検査が上部尿路再発の早期診断に役立つか否かを検証したものです。腸管を利用し、尿路変向を行った後の自然腸管通過尿は通常の尿細胞診検査と異なり、腸粘膜の混入や、細胞の変性、感染を伴った尿での検査となる為、細胞診断が困難になると場合が少なくありません。本研究では尿路変向後の細胞診検査がどの程度上部尿路再発診断に役立つのかを検討しています。当院でこれまで膀胱全摘術を施行したうちの125例において尿細胞診陽性例は17例、うち11例(64.7%)は擬陽性でした。8例に上部尿路再発を認めましたが3例は定期的な画像診断後に尿細胞診陽性で、実際尿細胞診検査が早期発見に役立ったものは3例のみでした。実に、尿細胞診検査約2600回施行し、3回(0.125%以下)の尿細胞診検査が上部尿路再発の早期診断に寄与したという結果でした。

上部尿路再発はその頻度が比較的少ないという現状もあります。尿細胞診検査は低侵襲であり簡便な検査ではありますが、膀胱全摘術後の再発診断手法として用いる場合はその評価に特別な配慮が必要であると考えられます。



『筋層浸潤性膀胱腫瘍に対するゲムシタビンとシスプラチンによる化学療法施行中に生じた白質脳症の一例』
受賞者:前田高宏

抄録

50歳男性。筋層浸潤性膀胱腫瘍に対し,術前補助療法としてGemcitabineとCisplatinによる化学療法を2コース施行したが,画像評価では病変はPDであった。一方,化学療法2コース終了3週間後に全身倦怠感が顕著となり入院となった。入院時の意識レベルに問題はなかったが,入院6日目突然,発語・自動性を失い,昏睡状態となった。電解質異常や疼痛コントロール目的で使用していたフェンタニルの過剰投与が原因かと疑い検査対処したが状況は改善しなかった。頭部CT検査では,後頭頭頂葉の白質に左右対称性の低吸収域を認めた。MRIでも後頭頭頂葉と視床に左右対称性の病変を認めた。脳脊髄液検査に異常はなく,白質脳症の診断に至った。可逆性白質脳症は免疫抑制剤,化学療法薬使用時にみられる可逆性の神経学的,放射線学的所見を呈する疾患である。近年,いくつかの薬剤使用時の発症が報告されているが,その病態についてははっきりしていない。また,本疾患は泌尿器科腫瘍領域での報告例は過去に1例あるだけで十分に理解認識されていないものと考える。本疾患は可逆性であることが多いとされる一方,発見や対処の遅れが広範囲な脳梗塞を起こし死亡することもあるとされる。担癌患者が突然の意識障害を起こした場合は本疾患を鑑別の一つとして考え,適切に対応することが肝心と考え,文献的な考察を加え報告する。


指導医のコメント(菊地栄次)

本症例は、中年男性の筋層浸潤性膀胱腫瘍に、術前補助療法としてGemcitabineとCisplatinによる化学療法2コース施行後に突然に生じた意識障害に対し、発症の早期から神経内科・放射線診断科と連携し各種検査を行い、Reversible posterior leukoencephalopathy syndrome(RPLS)と診断し治療しえた症例です。今回報告したRPLSは免疫抑制剤や化学療法薬使用時にみられる可逆性の神経学的、放射線学的所見を呈する疾患で、近年いくつかの発症例が報告されていますが、その病態は未だはっきりしていません。また、本疾患は泌尿器科腫瘍領域での報告例は稀であり、泌尿器科医の中では、十分に理解認識されていないものと思われます。本疾患は可逆性であることが多いとされる一方、発見や対処の遅れが広範囲な脳梗塞を起こし死亡することもあるとされており、担癌患者が突然の意識障害を起こした場合は本疾患を鑑別の一つとして考え、適切に対応することが肝心と考えます。



『pT3上部尿路上皮腫瘍をpT3a、pT3bに細分類することの臨床的意義』
受賞者:菊地栄次

抄録

目的

今回我々はpT3腎盂腫瘍をpT3a:顕微鏡的、pT3b:肉眼的腎盂周囲浸潤と細分類し、その臨床的意義について検証した。

対象と方法

1987年から2006年までに手術治療を施行した原発性上部尿路上皮腫瘍は217例であり、このうち腎盂腫瘍は125例であった。なおpT3は66例であった。pT3a(N=28例、42.4%)、pT3b(N=38、57.6%)に分け臨床、病理所見の特徴を検討した。なお、泌尿器病理医により病理標本はすべて再評価した。

結果

腎盂腫瘍(N=125)において、病理組織学的深達度別に見た疾患特異的生存率はpTa:95.2%、pT1:100%、pT2:71.9%、pT3a:100%、pT3b:53.3%、pT4:44.4%であった。腎盂腫瘍(N=125)において、多変量解析を行うと、pT3a以下とpT3b以上の2群に分類するとpTstageがリンパ節転移の有無と同様に独立した予後予測因子となった。pT3(N=66)において壁内脈管侵襲はpT3bにおいて81.6%に認められたのに対して、pT3aでは25%に認めるのみであった(p<0.001)。pT3(N=66)の多変量解析においてpT3の細分類のみが独立した予後予測因子であった。

結語

pT3aとpT3bにおいて明らかな予後の差を認めることから、腎盂腫瘍においてpT3を細分類することの重要性が示唆された。


 

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第96回日本泌尿器科学会総会賞

平成20年4月26日(土)

このたび、「若い泌尿器科医を対象とした体腔鏡下手術手技向上の試み」につき発表を行い、第96回日本泌尿器科学会総会賞を受賞することができました。

鏡視下手術は普及、定着しつつあるものの若い泌尿器科医を対象とした教育システムは確立されていないのが現状であり、鏡視下手術の教育システムの確立は急務と考えられます。鏡視下手術をマスターするためには、手術ならびに解剖に関する知識、ルールならびに手術手技を学ばなくてはなりません。しかし、その根底となる基本的な手技の向上なくしては鏡視下手術のマスターは不可能です。手術手技の向上には、動物ラボやシュミレーションラボを用いたトレーニングが必要かもしれませんが、基本的な手術操作を学習するならば、ドライボックスを用いた方法でも十分かと考えております。当院では鏡視下手術の症例数は豊富であり、教育システムの確立は可能と考えられます。

そこで本検討では、卒後7年目以下の若手レジデント11人を対象として最も簡便な練習器具であるドライボックスを使用し、鏡視下手術の技術向上の可能性を模索しました。計6ヶ月間、2クールに渡って、数週毎に切開手技と縫合手技についてテストを続けました。その結果、当初、スコピストや臨床経験の有無がテスト結果に影響していましたが、練習やテストを繰り返すにつれ、鏡視下手術テスト結果に影響するのは練習時間(100分/週以上)であることが判明しました。このテスト成績を踏まえ、上位2名(6年医1名、3年医1名)を選考し、彼らには臨床実地のいくつかのステップでも術者を経験させました。その結果、良好な学習曲線を確認することができました。

今後もこのシステムを継続し、当教室における鏡視下手術手技の技術向上に貢献することができれば幸いと考えております。

文責 宮嶋 哲

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第45回癌治療学会優秀発表賞

平成19年10月24日(水)

このたび、『長期経過観察を行った表在性膀胱癌の再発に関するrisk分類とBCG膀胱内注入療法の意義』につき検討を行い、第45回癌治療学会の優秀発表賞を受賞することができました。膀胱癌の再発予防には膀胱内にBCGを膀胱内注入することがStandardですが、非常に強い副作用を生じることがあります。また再発予防効果も十分でないのが現状です。そこで本研究では当院にてこれまでに治療した膀胱癌症例200例以上をReviewし、BCGの効果につき再検討しました。まず再発のRiskを検討してHigh riskおよびLow riskグループに分類し、それぞれのグループにおけるBCGの効果を統計学的に検討しました。High riskグループ(pT1または多発)においてBCGは非常に強い再発予防効果を認めるものの、Low riskグループ(pTa単発)における効果は不十分でした。つまりHigh riskグループにおいては可能な限りBCG膀注を施行する必要性があるものの、一方Low riskグループにおいては、高齢者等症例によってはBCG膀注を施行しなくてもよいという可能性が示唆される結果でした。尚本研究は症例数を400例以上にさらに増やし、Risk分類を細分化した上で再検討をおこなっており、AUA2008にて発表予定となっております。今回の受賞を励みに、引き続き臨床応用に直結するような研究を継続していきたいと考えております。


文責 松本 一宏

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